建築

2008年5月27日 (火)

サンタ・キアラ館

Fi2620007_1e 茨城県日立市大みか町
1974 白井晟一

 その建築家が生涯にわたって建てたもの全てを見てみたい、と思うことはそんなに多くありません。 でも、この人は別です。

 生業として建築を建てていると、どうしても手掛けざるを得ないような類の事例が白井の場合にはほとんどありません。それは彼が純粋な意味での建築家だった事を示しています。そういう意味で彼の建築は「作品」であると言ってしまってもいいかも知れません。

Fi2620007_2e  類似例としては生業としての建築家ではない藤森照信あたりも似ています。彼のキャラクターの向こうに隠されてはいますが、やはりあれも「作品」だと思います。

 茨城県西部、海からほど近い大学のキャンパスに建つチャペル、サンタ・キアラ館。

 外観に煉瓦積みの湾曲した壁が見えてくると胸は高まります。そこに濃密な空間が内包されているのは間違いないでしょうし、曇天もまた白井の建築には良く似合いました。

 重厚な入り口の扉をくぐります。白井の建築にはなまめかしい色気があります。そういえば、村野藤吾の建築にも時折感じるものです。

Fi2620007_3e  チャペルの椅子に座り、まるで飽きずにその空間に身を浸し、直喩とも思える少し聖堂には不似合いな天井を見上げていると、静謐さが沁み込んでくるような感覚を覚えました。恍惚と出来る空間です。

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2008年2月11日 (月)

白水溜池堰堤

Fi2619994_1e 大分県竹田市次倉
1938 小野安夫

 豊後竹田駅の観光案内所で教えてもらった道を借り出した駅レンタカーでたどって20分くらい、日本一美しいダムという看板に偽りなしの光景が目の前に広がった。車を使わなければ行くのが難しい山中にあるが、それでもわざわざ訪れて損はしない。

 この堰堤は県の土木技師であった小野安夫による設計だが、役人の仕事とは思えないくらいのオリジナリティを持っているのに驚かされる。計算し尽くされたなめらかな傾斜を水がすべりおりると堤の下で水はチョロチョロと表現したくなるほどに穏やかになっている。川底をえぐらぬようにとの狙いが見事に達成されている。左右の岸壁に施されたそれぞれが異なる造形も大変に興味深い。

 大分県内を移動していると非常に多くの石造構造物を目にするのだが、それはこの地区に多くの優秀な石工が存在したことを示している。白水堰堤の築造においてもその技術は如何なく発揮され、彼等の存在なくしては到底このような傑作はうまれなかっただろう。優秀で進取に富んだ技師と石工の高度な職人技の幸せな合体である。

 農業土木施設であるが故にそもそも一般の目に触れることを前提としていないにもかかわらず、きわめて魅力的な姿を見せる白水堰堤。人工物でありながら、その美しさは意図されたものでは無い、もしくは無いように見える。意図的であることが明白な建築ではあり得ない、土木構造物ならではの強度である。

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2007年3月13日 (火)

仁科神明宮

Fi2619938_1e 長野県大町市社1159
1636

 安曇野という言葉には旅行者を魅了する響きがあります。美しい山並みと透き通る湧き水、お腹一杯にきれいな空気を吸い込んでというイメージ。そして実際に訪れてみるとどうかというと、これがあながちおおげさでもありません。さすがは日本屈指のリゾート地です。

 日本最古の神明造である仁科神明宮は、そんな信州の美しい風景の中にあります。参道に巨大な杉の古木が並ぶ神域には人の気配もあまりなく静謐で、まさに神のおわす所という感じ。信仰の場である寺社においてロケーションは重要な位置を占めていると実感します。

Fi2619938_2e_2  仁科神明宮の建物で最も特徴的なのが、本殿と中門をつないでいる釣屋とよばれる部分です。山の斜面に沿って本殿の横に回りこむことが出来るので近くから見られるのですが、面白い造りになっています。
 伊勢神宮のような規模ではないので神明造といっても高圧的な感じがありませんし、釣屋がかかっているせいでどこかキュートな感じを受けます。いったい誰が雨に濡れないための釣屋だろうかと考えると面白い気もします。

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2007年1月31日 (水)

朝日新聞山形ビル

Fi2619931_2e 山形県山形市六日町7-10
2002 妹島和世・西沢立衛

 この設計者の建物にしては美しく保たれています。メンテナンス性という点では最低なのが妹島建築ですから、彼女の儚く美しいデザインを欲しいなら死ぬ気で維持しろということです。

 ここ数年は妹島エピゴーネン的な建築ばかりが雑誌に載っていてどれがどれやら状態ですが、それだけの流行を生んだ先駆者は偉大なわけで、みんなで真似したりするからしょうもなくなっちゃうんですね。
 デザイナーとしての妹島さんは優秀ですが、模型で十分という感じの建築家でもあります。場所性と無縁の人なのでアンビルドもしくはパビリオン建築の方が純粋に楽しめるかも知れません。もしくは再春館製薬やパチンコパーラーがいい例ですが、維持に手を抜かない民間企業の建物ですね。

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2007年1月28日 (日)

吉池小児科医院

Fi2619930_1e 山形県山形市十日町2-4-16
1912 中條精一郎

 中條精一郎といえば曾禰達蔵とのコンビが思い浮かぶわけですが、この吉池小児科は単独での設計です。初めて見る中條個人の仕事ですが、正直上手くないなぁという印象でした。
 特に妙なのが2階窓回りの装飾。どこをどう見ても収拾が付いていません。正規の建築教育を受けたとは思えない見よう見まねのデザインです。

Fi2619930_2e  中條が田原新之助と共同設計した山形県庁舎(現文翔館)の堂々とした姿と比べたとき、いささか疑問が沸きます。中條の才覚はどこにあったのだろうかと。彼は意匠家として有能だったわけではないけれど、共同設計においては素晴らしい建築を残しています。いわば名プロデューサーだったということでしょうか。

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2007年1月23日 (火)

山形梅月堂

Fi2619927_1e 山形県山形市七日町1-4-26
1936 山口文象

 山形には今でも多くの旧建築が見られますが、その中でも注目したいのがこの山形梅月堂(現梅月館)です。分離派の一員として有名な山口文象の設計になり、典型的なモダニズムのデザインが施されています。白い壁、大きな窓、フラットルーフ、そして堀口捨巳にも見られるような屋上のルーバーなど非常に良い保存状態ですし、現在もドトールコーヒーとして現役であるのが何より喜ばしいことです。

 往時の技術でこのデザインですから雪国だけに苦しい部分も多いと思われるのですが、ここまで維持してきたオーナーの志を尊敬します。ドトールの看板もデザインに配慮し必要最低限の大きさにしているような気もして、時間がなく売上げに貢献出来なかったことだけが心残りです。

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2006年10月27日 (金)

加茂町文化ホール ラメール

島根県雲南市加茂町宇治303
1994 渡辺豊和

 山陰の山奥に渡辺流神殿が建っていました。よそ者なのでただ面白がってればいいですが、地元の人達にしてみればあまり笑えないのかも知れません。
 良いも悪いも無いレベルの建築ですが、この設計者に大きい規模の建築をやらせてはいけなかったのだろうという事だけは言えそうです。小品であれば、かつて訪れた西脇の古窯陶芸館などは素敵な建築でした。

 この建物は内部の方が見るべき表現になっていて、竜骨のような天井はなかなかの迫力です。ただ、このアピール度100%の廊下を進んでいくとそのまま裏口に出てしまいます。平面計画とデザインに因果関係はあまり無いのでしょう。

 人間はそれぞれ向き不向きがありますから、渡辺さんは小規模建築でないと失笑されるばかりで気の毒です。まぁ別に嫌いな建築家では無いので、秋田市体育館あたりはいずれ見ておかねばと思っています。

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2006年10月16日 (月)

親和銀行本店

長崎県佐世保市島瀬町10-12
1967-75 白井晟一

 佐世保の街を訪れた理由は、これが見たかったというただそれだけです。「先生」という敬称を付けて呼びたい建築家のひとり、白井晟一の最高傑作でしょう。この建築に傾けられた情熱と労力は計りがたいものがあります。

 建築当初からあったというアーケードが建物のファサードを水平に切り取っていて、その前に立っても全体を把握するのは難しい建物です。引きが取れれば威容を誇ることも出来ますが、正直言って外観の重厚さはほとんど効果を発揮していません。実物よりも図面や写真の方が訴求力が強くなる珍しい例だと思います。
 しかし、内部の豊潤さは他の追随を許しません。白井晟一の建物は大体において閉鎖的で外部との関係性は希薄ですが、これは特にそう。建物の中に一歩踏み込んでしまえば、異界といっておおげさではありません。

 白く塗られた栗材で構成された和室の独創、懐霄館の展望室に見る材料同士の奇跡的な調和、ブラジリアンローズウッドとベルベットが奢られた目のくらむような美術展示室。これが現実のものとなったことが奇跡ともいえます。

 見学を終えて公園のベンチから呆然と見上げた砂岩積みの懐霄館。一企業の努力だけで維持していく難しさを考えると、重要文化財指定などの方策に期待したいと思います。同じ設計者の銀座の東京支店は壊されてしまいました。本店がその後を追うようなことはあってはなりません。

 最後に、お忙しい中にもかかわらず館内の案内をして下さった親和銀行の山本氏に多大な感謝を。

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2006年7月17日 (月)

出雲大社庁の舎

島根県出雲市大社町杵築東195
1963 菊竹清訓

 菊竹さんの傑作はいくつかあるけれど、間違いなくこれもそのひとつでしょう。参道から見ると左手に建てられている事務所棟がこの庁の舎で、独特の造形がとても目を引きます。稲掛けをモチーフにしているのだろうと長らく思い込んでいるのですが、菊竹さんの考えと合っているのかは知りません。なんにせよ、とにかく美しい建物です。

 コンクリートという材料を繊細に見せるという点において素晴らしいデザインですし、それでいてゆるぎない堅固さも感じさせるのは見事。和とコンクリートの融合において丹下さんの香川県庁舎と並ぶ双璧ではないでしょうか。

 50年近く前に建てられたとは思えないほど状態がよく、いかにメンテナンスが行き届いているかが分かる幸せな建築です。

 建物の大部分は応接室で、外部造形がそのまま反転して内部空間となっています。円形の大きなソファ、巨大な提灯形の照明器具、スリットから差し込む光がこれまた美しくて恍惚としてしまいます。
 東光園や佐渡グランドホテルを訪れていないので暫定ですが、私の菊竹ベストワンです。

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2006年4月22日 (土)

神魂神社

島根県松江市大庭町563
1583

 神魂神社は大社造建築として現存最古のもので、出雲大社よりも古式を残す。規模において出雲には遠く及ばないが、寺社は観光地化されると宗教施設としての純度がどうしても下がるので、そういう面から言ってもこちらの方が価値が高いという考え方もあるだろう。
 ちなみにこの神社の正面にはほとんど引きが取れるようなスペースがなく、すぐに石段が下っている。さらに本殿の前には軒を接して拝殿が建っている。つまりこの神社にアプローチした際、すぐに全体を把握するのが難しい。非常に窮屈な建て方で、どうしてこういう配置を取ったのか不思議。拝殿は後の付け足しだとしても妙だ。

 大社と異なるのは本殿にかなり接近できること。やはり距離が短ければリアルさが違う。木割りの太さが迫ってくる。壁面から飛び出さんばかりの宇豆柱がすぐそこにある喜び。わざわざ来た甲斐があったと思うのはこんな時。

 床下を見上げる。こういう表現になること自体が普通は有り得ないわけで、床がいかに高いかよくわかる。明るさに満ちたその場所は床下の概念をくつがえす。ピロティがすでに発見されていた、とか言ってみたりして。

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